中小機構

CASE 02

特殊精機株式会社

見える化で「攻めの経営」を実現「勝ちぐせ!」を育て黒字化を達成!

福島県喜多方市と栃木県那須塩原市を拠点に、電子機器の完成品組立や携帯電話等の電子基板実装を収益の柱として業績を伸ばしてきた特殊精機株式会社。主要取引メーカーの工場閉鎖により一気に業績が悪化したが、中小機構のハンズオン支援を受け、目標の2年で黒字化を成し遂げた。同社の慶德孝幸社長と中小機構東北本部の小久保孝仁チーフアドバイザー(以下「小久保CAD」という。)に、V字回復までの足跡を聞いた。

主要取引先の工場閉鎖で売り上げが激減

― 慶德社長は会社が危機を迎えたときに就任されました。

慶德まさに火中の栗を拾うような状況でしたが、一緒に頑張ってきた社員の雇用を守っていきたいという気持ちが強かったですね。とはいえ、携帯電話のメイン基板を100%受注していた取引先メーカーが工場閉鎖したわけですから、まずは仕事を取ってこなければならない。それで、がむしゃらにお客様を開拓したのですが、安価な製品の受注が多くなったことに加え、量産品の生産に慣れていた現場が多品種小ロットの生産対応に追いつけず、負のスパイラルに陥っていました。そんなとき東京中小企業投資育成の担当者から、中小機構によるハンズオン支援事業があることを紹介されたのです。
小久保最初にお伺いしたときの率直な印象は、経営に必要なデータは取っておられるなと。ただ、それが分析されていないと感じました。また、売上目標についても社長から方針は出されていましたが、具体的な事業計画はまだできていませんでした。生産ラインも一日10種類の機種を2ラインで流しているので、実装部品を入れ替えたり、治具を変えたりする作業に時間を取られ、生産ラインは40%くらいしか稼働していません。そこで、まず効率を10%向上して収益に結びつけようと考えました。

― そうして、第一期のハンズオン支援が始まったわけですね。

慶德最初に苦労したのは、外部の人から支援を受ける機会がなかったため、幹部社員も含めてやらされ感や拒絶感があったことです。また、小久保CADが話される内容も専門的な用語があることなどから、社員が理解するのに3カ月くらいかかりました。そんなとき、ある転機になる出来事があったのです。それは、小久保CADが出した課題に社員が対応しなかったときのことです。小久保CADはその社員に対し、「どうしてやらないのですか。私はあなたたちのため、あなたたちの会社のためにやっているんですよ。そのあなたたちが本気でなかったら、私は必要ないですよね」と強く言ったのです。私はその真剣さと熱い思いに改めて打たれました。後から小久保CADは「社長、社員を怒ってしまいました」と謝ったのですが、その社員に聞くと、あのとき怒られてハッと目が覚め、本気でこの会社を良くしようと一緒に頑張ろうとしているのが実感できたと言っていました。それから、社員たちの取り組みも加速していきましたね。
小久保そんなに怒った記憶はないのですが(笑)。とにかく、経営再建のために私にはテーマが二つありました。一つは、経営会議をして事業計画が守られているかしっかり管理すること。もう一つが生産効率で、こちらは現場の課長・係長に理解してもらわなければならないので、まず私にできることを見ていただくのが大事だと思い、生産現場のビデオを撮って作業分析をし、どう改善すればどれだけ効率が上げられるかを社長や現場の課長・係長にも見ていただいて説明し、私が取り組もうとしていることを理解していいただきました。

成果を実感することで全社に大きな変化

― 社員が変わってきたのを実感されたのは。

慶德まず稟議書が変わりましたね。小久保CADに教えていただき、費用対効果も含めてプレゼン資料をしっかり作り、私が見たときにはハンコを押すしかないほどの完成度になりました。支援を受けて半年で、これだけの変化が表れたことに驚きました。また、PDCAを繰り返すことで、皆でやれば成果が出て自分たちも変われるんだと実感して、一人一人のモチベーションがものすごく高まり、協調性も出てきました。小久保CADに今までの当社にない風を吹き込んでもらったのです。
小久保第一期が半年経ったころには、毎月の収益の管理・評価をしてどこが悪かったのかというコメントを出すと、社長・役員・工場長など皆に理解してもらえ、やるべきこともわかってきました。それと並行して、実装ラインのPDCAもうまく回り出したのです。そうするうちに売り上げも伸びてきて、社長は「勝ちぐせ!」と言っていますが、自分たちにもできるんだということで、管理職から若い社員まで顔つきが変わってきましたね。
慶德もう一つ大きなターニングポイントは、第一期の半年過ぎたころに、それまで月末に経営会議をして売り上げの分析を行っていたのを、それでは後追いの管理だということで、月の初めの早い段階で目標の売上予測を立てていく「攻めの管理」「攻めの経営」に変えたことです。それにより、目標を達成しようというモチベーションが高まり、そのために必要な一人一人のミッションが明確化されました。

特殊精機株式会社
代表取締役
慶德 孝幸氏

中小機構 東北本部
中小企業支援チーフアドバイザー
小久保 孝仁氏

見える化で目標達成へのアクションが明確に

― 二期目が始まるとき、目標の黒字化が達成できる感触はありましたか。

慶德管理会計書式にかえたことによって、営業利益を黒にするためにはどの部分を削減すればいいかなどが見える化され、同時に生産の効率化などそれまでの成果が数値に表れ励みになりました。現場の管理者も数値を見て、目標を達成するにはどんなアクションが必要かを常に意識するようになり、黒字化につながっていくという感触がありました。
小久保管理会計書式についは、毎月の月次会議で分析するということを一年続けてきて、社長も管理職もしっかり理解して活用できるようになりました。そうした中で、社長が新規の顧客を開拓して売り上げも上がってきていたので、黒字化はいけるだろうと思いましたね。現場の雰囲気も大きく変わっていて、売り上げが若干停滞したときも、課長、係長はじゃあどうすればいいのかというのを、私が言わなくても目を爛々とさせて素晴らしいアイデアを出してくるのです。しかもいいアイデアはほかの工程にも迅速に水平展開されました。
慶德黒字化に向けてもう一つ大きかったのは、数値が見える化できたことで仕事の適正価格がしっかり見え、企業努力をしてもできない部分はお客様に理論的に説明し、価格交渉させてもらったことです。
小久保第一期のときに、作っても赤字になる製品があって、それが売価の値決めの問題なのか、生産に無理や無駄があるのか、不良が多いからなのかなどをハッキリさせて、どんなアクションをすべきか行うようになりました。見積もりの仕方も、営業課長だけがわかるようなものではなく、誰が見ても分かる見積りで、しかも見積りの段階で利益が出るものを出せるようになりました。

― 最後に、今回の支援の振り返りと今後についてお聞かせください。

慶德今回ご支援をいただき、私も変わりましたが、社員も大きく変わることができました。これまで、ケガをしてはいけないと、親が子どもにリンゴを剥いてあげるようなところがあったのを、ご支援を受けたことで、誰もが自主性をもってやるという文化が会社にできました。私も「攻めの管理」がスムーズにできるようになり、社員も自分で考え自立して果敢に行動できるようになりました。そして大事なのは、「勝ちぐせ!」をつけるということで、ご支援いただいたことを地道にブラッシュアップしながら、会社もそこで働く人も輝くようにしていきたいと思っています。
小久保現場の課長が、今回PDCAを進めて成果が実感できたことで自信が持てたと言っていました。そういう自信につながる成功体験が大事で、今後は6S発表会も含めて社員の方が発表を行う機会をできるだけ多く設けて、ほめてあげてほしいと思います。その成功体験の積み重ねが、人をスキルアップさせる栄養になります。今後のさらなるご発展を期待しております。