中小機構

CASE 01

赤星工業株式会社

「一品 料理的」な体質改善に挑み原価・利益へ理解と全社的視点を醸成

 アルミをはじめとする非鉄金属の溶接に高い技術力を誇り、岸壁に隣接して大型建造物の製造・海上輸送にも対応できる強みを持つ赤星工業株式会社。しかしその一方で、社内における採算管理や見積書の作成方法などに課題を抱えていたことから、今般、中小機構のハンズオン支援を活用し改善に取り組んだ。当社の伊藤広一社長と中小機構の氏家次郎チーフアドバイザーにその成果を聞いた。

「一品料理的」製品が多く原価管理に苦慮

― 事業面で高い競争力を有する一方、採算管理など経営面で課題があり、今回ハンズオン支援を活用されました。

伊藤当社は社歴が70年を超え、その中で培った知見を基に、生産管理のために活用していた原価レートを用いて原価管理を行ってきたのですが、個別の案件を積み上げた数値と決算書の数値が一致しないケースが多くありました。このため、仕事を進めている段階で、どの程度利益があるのかわからない仕事が結構あったのです。それを改善しなければならないという認識は皆にあったのですが、どういう切り口でメスを入れればいいのかわからず、今般、中小機構様に専門家の派遣を依頼させていただきました。
氏家もともと企業力のある会社だと評価させていただいておりましたが、課題についてお話を伺い、量産品よりも「一品料理的」な製品が多いことから、その管理にはかなり工夫が要ると感じました。そこでまず、原価管理の仕組みを作り直さなければならないだろうと考え、取り組みを始めました。

― 実際に支援を受け始められたときの状況は。

伊藤当社のモノづくりにはいくつかパターンがあります。最も多いのは、お客様から仕事を受注して設計をし、材料を調達して製造するケースです。またそのほかに、設計はしますが製造は他社にお願いするケースや、溶接士だけがお客様の現場に行ってメンテナンスを行うケースなどもあります。そうしたさまざまなケースがあるのですが、それらをきちんと切り分けて原価管理できる統一したルールが作りきれていませんでした。そのため改善が必要だと皆が気づいていたところを、専門家の視点でズバリと指摘されましたので、言われた瞬間に全員が納得してすぐに課題解決に取り掛かれました。

赤星工業株式会社
代表取締役執行役社長
伊藤 広一氏

中小機構
経営支援部チーフアドバイザー
氏家 次郎氏

氏家ベースとなる実績工数などについてのデータはきちんと取られていましたので、財務データを固定費・変動費、直接・間接に振り替え、新たに加工費レートと販管費レートを設定しました。これにより、当社の皆さんも原価と利益というものの明確な考え方をどんどん理解され、新レートが設定できる目処が立ちました。それが、6カ月を想定していた支援の3カ月を過ぎたころで、非常にスムーズに進めることができました。
伊藤今回は、入社一年目の社員も含めて営業職を全員参加させたのですが、経理が本業ではない社員が、変動費や固定費、販管費などの費目を自分で触って分類し、それにどれだけのインパクトがあるのかをつぶさに見ながら、時間当たりのコストを割り出していく過程は、私が見ていても実に貴重な経験になっているのがわかりました。そこには、これまで曖昧だったものがだんだんはっきり見えてくるという面白さも多分にあったのでしょう。皆がのめり込むような感じで積極的に取り組んでくれ、特に若い社員には大きな成長の機会となりました。

見積作成方法の見直しでも画期的な成果

― 原価レートの設定に目処が立ったことで、次に見積作成方法の見直しに着手されました。

氏家新レートが決まり、それをどう生かしていこうかと話をしているときに、見積りについても統一した基準がなく、それぞれが独自のやり方で行っていることを知り、取り組みを始めました。現状の手法では時間も手間も取られるし、そのため、肝心の新規開拓やお客様訪問といった営業本来の活動にも影響が出ます。実際、営業社員の時間の使い方を調べると、見積りにかなりの時間を要していることがわかりました。そこで「標準化」、「見える化」をキーワードに、現行の見積り作業の問題点を洗い出し、見直しを図ったのです。
伊藤営業にとっても自分の負担が軽くなることであり、むしろ喜んで取り組みがスタートしました。そして、一品料理的な製品が多いとはいえ、類似の製品やある程度パターン化された業務があったことから、原価に大きなウエイトを占める材料費、内作費、外注費の算出を使った手法を教えていただき、代表的な業務はある程度自動的に見積れるようになりました。さらに、そもそも見積りをすべき案件かという判断基準についても整理し、優先順位をつけてフロー図を作成し効率化することができました。今回、それらを学べたことで、今後は教えていただいた以上のことを自分たちでもやっていける環境ができたと思います。

― 想定以上に成果があがった印象があります。

伊藤そうですね。さらに良いこともありました。営業職に、過去5年間の事業セグメント別の集計をしてポートフォリオを作ってもらったところ、利益率がはっきり見える化され、この仕事は一見小粒だけれど利益率が高いとか、これは売り上げが多い割に利益率が低いといった、会社の現状を全員がしっかり把握する機会となりました。そうした副次的な効果はほかにもたくさんあります。
氏家副次的な効果というのは、ハンズオン支援事業の重要なところです。今回の見積業務の改善にしても、タコツボ型だった見積りを標準化することで、単に効率があがるだけでなく、目の前の仕事しか見えていなかった社員に会社全体を見る視点が生まれるのです。それは企業力を2倍にも3倍にもする原動力になっていくもので、次に何か新たな課題に直面したとき、自分たちで解決していける力にもなっていきます。

支援の成果をベースに中期経営計画に挑む

― 今回、営業関連の仕組みが整備されましたが、製造の現場にも影響はありますか。

伊藤非鉄金属の溶接に特化して50年近く経ち、人の手でしか作れないものを作ってきた自負はありますが、世の中はどんどん進化しており、気がつくと別の会社では機械が全自動でやっているという時代になる可能性すらあります。ですから、今回新たな原価管理が整備されたことにより、利益の多い部分と少ない部分がはっきり見えてくるので、利益の少ない部分には最新の技術を採り入れて、もう一つ上のレベルまで効率を高めようといった判断基準などにも活用できると思います。
氏家そういう意味では、社員の方のモチベーションも高いですし、今後さらに期待できると思います。今回のような取り組みは、日常業務のプラスアルファの作業ですから、課題を与えても、忙しくてできませんでしたというケースも少なくありません。それが、当初計画した新原価レートの設定が想定の半分の3カ月で目処が立ち、見積りの見直しもできたことは素晴らしいと思います。

― 最後に、今回の支援の振り返りと今後についてお聞かせください。

伊藤アドバイザーの先生方に来ていいただき、やろうとしたことが全部できたという中で、社員が一つのチームになり、向くべき方向を向いて頑張れば、何事もできるんだというのを実感しました。それが、私にとっても社員にとっても大きな自信になりましたし、当社の実態というのが見える化され、個々の頭の中でもきちんと理解して現状認識を共有できたことは、非常に意義があります。今後に向けては、我々が目指すべき姿を中期経営計画の形で示し、現在のポートフォリオと目指すポートフォリオの間で何をやるのかを、各部署で問題意識を持って取り組み、3年後、5年後に、あのとき支援を受けてよかったと言えるようにしたいと思います。
氏家今回のハンズオン支援では、当社の皆さんの力を感じました。今後の活動のベースとなる新たなツールも持てましたし、チームで取り組む大切さも実感されたと思いますので、あとはこれを継続していけるかどうかが重要になります。継続は力なりと言いますが、今後も取り組みを続けて、さらにステップアップしていただけることを期待しております。